それでも、海へ ~陸前高田 潮騒と共に~
Iwate / 岩手県陸前高田市

あれから 2年が経った。それでも浜人は、海に戻ってきた。ときには照りつける太陽の下で、ときには早朝の寒空の下で、漁師さんが積み重ねてきた苦労が、海の恵みとして再び届けられる。それぞれが抱いてきた2年半の想いがいっぱいに詰まった海の幸は、宝石のように美しく見えた。
瓦礫の残った海の底、流されてしまった船や漁具、2年経っても尚、乗り越えなければならないものを数えたらきりがない。それでも海の恵みを、毎日陸へと届け続ける、そんな漁師さんたちの背中を見られる時間はかけがえのないものだ。 この地が育んできた宝物を、少しでも多くの人に知り、そして触れてほしい。そんな願いを込めながら、シャッターを切った。
(※このギャラリーの写真、および文章は2013年にオリンパスプラザ東京、大阪で展示した写真展「それでも海で」を改題、再構成したものです。)
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朝4時前。夜明けが近づく空の下、漁師たちの1日が静かに始まる。
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「なあに、これでも大きい方じゃねえんだ」と漁師たちが笑う。畳二畳分はあるだろうか。この日はマンボウが数匹引き揚げられた。
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水っぽいマンボウの体は溶けやすく足も早い。船上ではすぐさま、時間勝負の解体作業が始まる。
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「イカは賢いんだあ。必ず顔面を狙ってくるもんな」と苦笑い。下を向きながら網を揚げると、誰かが必ず被害に遭う。
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日が昇る頃、網を起こし終え、船は大船渡市場へと向かっていく。慣れた手つきで魚をさばく先輩たちを、若手漁師が見守る。
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椿島付近にたどり着くと、二艘体制で作業が始まる。
網を起こしながらゆっくりゆっくり、第八椿丸が接近する。流されてしまった二艘にかわり、震災後造られたばかりの船だ。 -
大漁の日はいつも、ウミネコたちがどこまでも追いかけてくる。
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魚市場に魚を揚げきり帰り路。小さなイビキが船の舳先から聞こえ始める。
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「いやあ、年にはかなわねえ」船からあがり、仮設の番屋で「あまちゃん」を見た後の憩いのひととき。
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霧深い7月の海。数メートル先も靄の中だ。籠を仕掛けながらも神経は常に周囲に張り巡らさなければならない。そろりそろりと、滑るような前進が続く。
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日没と共に出航。静かに船を停めると、海面が段々と白くなっていく。
シラスの群れは細かく、魚群探知機に殆ど現れない。その上岩場の多い陸近くでの操船となるため、長年の勘と熟達した技が必要だ。 -
船に引き揚げられたばかりのシラスはまだ銀色。4月の末となると成長が進み、体が大ぶりな物が目立ってくる。
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潮の香りと共に、2人は遅くまで精を出す。水揚げしたばかりのシラスは、港ですぐに釜揚げしていく。
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震災後初の水揚げを迎えた2012年末。
滅菌施設の被災により、殻つきの生牡蠣は出荷ができないままだった。それでも広田湾の牡蠣が、いよいよ復活の一歩を踏み出した。 -
「熱いのがはねるぞ、気を付けろ!」牡蠣のお風呂、と呼ばれる温湯処理。
水から全ての牡蠣を一度揚げ、70℃のお湯に通していく。熱に強い牡蠣だけが生き残り、他の貝や海藻がそげ落とされる。 -
「口ばっかり動かしてねえで、稼がねえと(働かないと)なあ!」お母さんたちの弾んだ声が響く。
この日は種牡蠣の間引きの日。港の作業場が流され、テントでの手作業が続いていた。そうは言いながらも、彼女たちの手は決して休まない。 -
2012年の秋ごろには、広田湾に浮かぶ牡蠣イカダは500基を超えた。
「牡蠣がぶら下がってるのは実際、これの半分くらいだけどな」と漁師さんたちが少し寂しそうに笑う。 -
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夜明けが近づくと、ウミネコの群れがざわめきだす。200メートル近い深海に沈めた籠を、修一さんが静かに揚げはじめる。
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「お、小さい割に吸い付き強いぞ!」漁師の孫はタコも掴み慣れたもの。素手で果敢に挑んでいく。
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修一さんと一緒に暮らす孫たちは3人。じいちゃん譲りで手先が器用な二男の夏生(かい)くん。
食べる担当は末っ子の修生(しゅうせい)くん、通称しゅっぺ。現場監督は長男の航生(こうせい)くん。じいちゃんのお手伝いは夏休みの日課だ。 -
この日はウニの口開けの日。ウニ捕りは6~8月にかけて、決められた十数日しか許されていない。朝の海に、緊張感が漂う。
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タコの籠に大物がかかった。「さあて、市場に売りに行くかな!」と横からじいちゃん。
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修一さんの家は「民宿志田」という宿を営んでいる。ゴールデンウィークには娘や孫たちが集う。従妹の前ではしゅっぺもちょっぴりお兄さんの顔。
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「なんだあ、二日酔いで寝坊か?」朝2時、誰よりも早い出航だ。後を追ってくる仲間たちの船と、無線で談笑しながら沖へと進む。
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ウニが口開けとなると、漁師の家の子どもたちは午前中の学校を休んでも手伝いに行く。
この日の助手は二男の夏生くん。朝の5時からの作業もへっちゃら。こうして彼らは、海の子になっていく。 -
「猫から守らなきゃね」と言いながら、自分の口にせっせと運ぶ。天日干し中のシラスは春のご馳走だ。
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よく晴れた日。「ねえ海行こ!早く行こ!」としゅっぺが必ず私の手を引く。破壊された街に僅かに残された遊び場だ。
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震災後、中々戻らない海水浴客を白浜が待つ。広田半島の東側にのびる大野海岸。梅雨明けの晴れた日には、広田の蒼がどこまでも広がっていく。
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日が暮れ、真っ暗だった水平線を漁火が照らしはじめる。
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「ほうら見ろ。皆帰りたくないって言ってんだ」
想い続けること。海へと戻る、その命を。
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